ハナとタマシヒ
平山千代子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)鼻汁《はな》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ます/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
ハナ
いつごろだつたのか、誰であつたか、多分、渡辺千代子さんだつたと思ふが、私をそつと手招きして、校庭のすみへつれて行つた。そして小さな声で、
「あのね、ハナッて、何んだか知つてる?」
「ハナ? ハナッて……この鼻?」と私は鼻を指先で叩いてみせた。
「うん、出てくる鼻汁《はな》よ」
「うゝうん、知らない」と首をふると、
「あのね、ハナはノーミソの腐つたものなんですつてさ……」千代ちやんは大げさに、まるくて茶色いその眼を、一層まるくしてさう教へてくれた。
「ふうん? さうお?」と私は云ふ。
真面目になつて教へる方も教へる方だが、「ふうん」と感心してきいてる者もきいてる者だ。が、だから面白い。ノーミソッて云ふのは、頭のこのオデコから上に這入つてゐる、大事なものだとは私は知つてゐた。してみれば鼻とは甚だ近いんだから、ほんとなんだらうとも思へる。
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