まあ、それはなんと云つても好いとして、僕はこれから全然新しい系統を立てる積りだ。それがどの位造作もないと云ふ事が、君には想像が付くまいね。新しい系統を立てるには、誰でも世間の交通を断つて、どこかへ引つ込めば好い。※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中に這入つても好い。そこで目を瞑《ねむ》つて考へると、直ぐに人類の楽園を造り出す事が出来る。さつき君がこゝから出て行つた跡で、僕は直ぐに発明に取り掛かつたが、午後の中に系統を三つ立てた。今丁度四つ目を考へてゐた所だ。無論現存してゐる一切の物は抛棄しなくてはならない。なんでも構ふ事はないから破壊するのだね。そんな事は※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中から遣ると造作はないよ。万事※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中から見れば、外で見るより好く見えるよ。それはさうと僕の今の境遇にも、贅沢を云へば多少遺憾な点はあるさ。なに、けちな事なのだがね。先こゝは少し湿つてゐて、それからねと/\してゐる。それに少しゴムの匂がする。丁度去年まで僕の穿いてゐた
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