3水準1−94−55]を空虚に製造して置けば、自然がそれを空虚の儘で置く事を許さないから、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の功用が生じて来る。空虚なものを、空虚の儘で置く事は、自然の単純な法則が許さないから、そこへ何物かが這入つて来なくてはならない。そこで※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]はなんでも手当り次第に呑まなくてはゐられない事になる。どうだね、分かるかね。さう云ふわけで※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]は人間を呑むのだ。詰まり空虚の功用の法則だと云つても好い。この法則は無論あらゆる生物に適用すると云ふわけには行かない。例之《たとへ》ば人間なんぞはそんな風に出来てはゐない。人間の頭は、空虚なれば空虚なだけ、物をその中へ入れようと云ふ要求を感じない。併しそんなのは破格と見做《みな》さなくてはならないのだね。こんな道理は、僕には今火を観るよりも明かになつてゐる。今僕が君に話して聞かせる事は、皆僕の智恵で発明したのだ。僕が自然の臓腑の中に這入つてゐて、自然の秘密の淵源に溯つてゐて、自然の脈搏を聞
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