ゐる。それが※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の全体だと云つても好いのだ。そこでその二つの部分の中間には、大なる空隙がある。それが硬ゴムに類した物質で包まれてゐるのだ。事に依つたら実際硬ゴムから成り立つてゐるかも知れんよ。」
己は殆ど自分を侮辱せられたやうに感じて、イワンの詞を遮つた。「併し君、肋《あばら》はあるだらう。胃だの腸だの肝臓だの心臓だのもあるだらう。」
「そんな物はこゝにはない。絶無だ。察するに昔からそんな物がこゝにあつた事はないだらう。そんな物があるやうに言つたのは、軽卒な旅人《りよじん》が漫《みだり》に空想を弄《もてあそ》んで、無中に有を生じたのだらう。丁度ゴムで拵へた枕をふくらますやうに、僕は今この※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]をふくらます事が出来るのだ。この※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中は実に想像の出来ないほど伸縮自在だからね。君に好意があつて、僕の無聊を慰めてくれようと思ふなら、直ぐにこゝへ這入つて貰ふだけの場所は楽にあるのだよ。実は万止むを得ない場合には、
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