差支へなく返事をしなくてはならんからね。それから是非毎日サント・ペエテルブルク通信の社説を読んで、それをヲロス新聞の社説と比べて見なくては行けない。その辺も好く言つて聞かせて置いてくれ給へ。多分こゝの持主が承諾して時々は妻のサロンへ、この※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]を持出すやうになるかと思ふ。さうなれば立派な座敷の真ん中に、このブリツキの盤を据ゑさせて、こつちは※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中から気の利いた事を饒舌るのだ。無論朝の内から腹稿《ふくかう》をして置く事も出来るからね。政治家が相手になれば、政策上の意見を聞かせて遣る。詩人が相手になれば韻文で饒舌つて遣る。貴夫人が相手になれば対話の巧妙な所と興味のある所を見せ付けて遣る。※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中にゐれば、嫌疑を蒙る虞《おそれ》はないから、十分伎倆を発揮する事が出来ると云ふものだ。普通の人間に対しては、模範になつて遣る。神の摂理の下に意志を屈すると云ふ謙徳を見せて遣る。妻は立派な文藝家に為立《した》てゝ遣る
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