。当世自然科学が盛んに行はれてゐますから。本人が現在の位置に生活してゐて報告いたしたら宜しいではありますまいか。例之《たと》へば消化の経過を実地に観察して報告するとか云ふやうなわけには行きますまいか。事実の材料を集める目的で。」
「成程。して見るとそれは一種の分析的統計と云ふやうなものですな。一体そんな事はわたしには好く分からない。わたしは哲学者ではない。併しあなたは事実の材料と云ふ事を云はれたが、それでなくても我々は目下事実の多きに堪へないで、その処置に困る程です。それに統計と云ふものも随分危険なもので。」
「どうして統計が。」
「危険ですとも。それにイワンに報告をさせるにしても、その報告は横に寝てゐてするのでせう。一体横に寝てゐて勤めると云ふ事がありますか。それなんぞも頗る危険な新事実です。それにどうも先例のないのに困りますよ。何か只の一つでも似寄つた事があつたのを、あなたでも御承知なら、それはそんな所へ派遣すると云ふ事も出来るかも知れませんが。」
「併しどうも生きた※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]は今日《こんにち》までロシアにゐなかつたのですから。
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