誰かが来て、あの男が※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の中にゐると云つたつて、我々はそれを信用さへしなければ好いです。さうしてゐるのは、造作はありません。要するに時期を待つですな。何も急ぐにも慌てるにも及びません。」
「併しひよつと。」
「なに。心配しないが好いです。あの男は物に堪へる質《たち》ですから。」
「ところが愈《いよ/\》我慢した挙句は。」
「さあ。わたしだつてこの場合が困難な場合だと云ふ事は認めてゐます。思案した位で、解決は付きません。兎に角難渋なのは、これまで似寄の事もないのです。先例がない。もし只の一つでもさう云ふ例があると、どうにも工夫が付きませうがな。どうも如何んとも為様《しやう》がないです。考へれば考へる程むづかしくなりますからね。」
 この時己はふと思ひ付いた事があるので、チモフエイの詞を遮つた。「どうでせう。かうするわけには行きますまいか。兎に角あの男は※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中にゐて、その※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の寿命は中々長いと見なくてはなり
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