とも、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]とイワンとの様子を見たり、見物人の話してゐる事を聞いて、人心の観察をしたりしようと思つたのである。いづれ見物人の数は多からうと思つたので、己は用心の為め外套の領《えり》を立てた。なぜだか知らないが、人に顔を見られるのが恥かしいやうな気がしたのである。一体我々は人中に出る事に慣れてゐないのだ。こんな事は言ふものゝ、友人が非常な運命に陥つてゐるのを思へば、己の平凡な感想なぞを彼此言ふのは済まない事だ。



底本:「鴎外選集 第15巻」岩波書店
   1980(昭和55)年1月22日第1刷発行
初出:「新日本 二ノ五―六」
   1912(明治45)年5〜6月
原題(独訳):〔Das Krokodil. Eine aus&ergewo:hnliche Begebenheit oder eine Passage in der Passage.〕
原作者:Fyodor Mikhailovich Dostoevski, 1821−81.
翻訳原本:F. M. Dostojewski: 〔Sa:mtliche〕 Werke. 2. Abteilung, 17. Band. Onkelchens Traum und andere Humoresken. (Onkelchens Traum. Die fremde Frau und der Mann unter dem Bett. Das Krokodil.) Deutsch von E. K. Rahsin. 〔Mu:nchen〕 und Leipzig, Verlag von R. Piper u. Co. 1909.
※底本では題名に「※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]」が用いられている。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※「細君」と「妻君」の混在は底本のママ。
入力:tatsuki
校正:浅原庸子
2002年1月16日公開
2006年1月7日修正
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