梹ゥ分は「そんな兵隊の並んだやうな町は美しくは無い、強《し》ひて西洋風にしたいなら、寧《むし》ろ反対に軒の高さどころか、あらゆる建築の様式を一軒づつ別にさせて、ヱネチアの町のやうに参差錯落《しんしさくらく》たる美観を造るやうにでも心掛けたら好からう」と云つた。
食物改良の議論もあつた。米を食ふことを廃《や》めて、沢山牛肉を食はせたいと云ふのであつた。その時自分は「米も魚もひどく消化の好いものだから、日本人の食物は昔の儘が好からう、尤も牧畜を盛んにして、牛肉も食べるやうにするのは勝手だ」と云つた。
仮名遣《かなづかひ》改良の議論もあつて、コイスチヨーワガナワといふやうな事を書かせようとしてゐると、「いやいや、Orthographie《オルトグラフイイ》 はどこの国にもある、矢張コヒステフワガナハの方が宜《よろ》しからう」と云つた。
そんな風に、人の改良しようとしてゐる、あらゆる方面に向つて、自分は本《もと》の杢阿弥説《もくあみせつ》を唱へた。そして保守党の仲間に逐《お》ひ込まれた。洋行帰りの保守主義者は、後には別な動機で流行し出したが、元祖は自分であつたかも知れない。
そこで学ん
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