にて、「一個人、一個人」とあやしき声して呼ぶものあるに、おどろきてかえりみれば、この間の隅にはおおいなる鍼《はり》がねの籠《かご》ありて、そが中なる鸚鵡《おうむ》、かねて聞きしことある大隊長のことばをまねびしなりけり。姫たち、「あなあいにくの鳥や」とつぶやけば、大隊長もみずからこわ高に笑いぬ。
 主人は大隊長と巻煙草《まきたばこ》のみて、銃猟の話せばやと、小部屋《カビネット》のかたへゆくほどに、われはさきよりこなたをうち守りて、珍らしき日本人にものいいたげなる末の姫に向いて、「このさかしき鳥はおん身のにや」とえみつつ問えば。「否、誰のとも定まらねど、われも愛《め》でたきものにこそ思い侍《はべ》れ。さいつころまでは、鳩あまた飼いしが、あまりに馴れて、身にまつわるものをばイイダいたく嫌《きら》えば、みな人にとらせつ。この鸚鵡のみは、いかにしてかあの姉君を憎めるがこぼれ幸《ざいわ》いにて、いまも飼われ侍り。さならずや」と鸚鵡のかたへ首さしいだしていうに、姉君憎むちょう鳥は、まがりたる嘴《はし》を開きて、「さならずや、さならずや」と繰り返しぬ。
 このひまにメエルハイムはイイダひめのかたわらに
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