おびてしかりきと覚ゆ。われはこの末の姫の言葉にて知りぬ、さきに大隊長がメエルハイムのいいなずけの妻ならんといいしイイダの君とは、この人のことなるを。かく心づきてみれば、メエルハイムが言葉も振舞いも、この君をうやまい愛《め》ずと見えぬはなし。さてはこの中はビュロオ伯夫婦もこころに許したもうなるべし。イイダという姫は丈《たけ》高く痩肉《やせじし》にて、五人の若き貴婦人のうち、この君のみ髪黒し。かのよくものいう目をよそにしては、ほかの姫たちに立ちこえて美しとおもうところもなく、眉の間にはいつも皺《しわ》少しあり。面のいろの蒼《あお》う見ゆるは、黒き衣のためにや。
食《しょく》終りてつぎの間に出ずれば、ここはちいさき座敷めきたるところにて、やわらかき椅子《いす》、「ゾファ」などの脚きわめて短きをおおくすえたり。ここにて珈琲《カッフェエ》のもてなしあり。給仕のおとこ小盞《こさかずき》に焼酎《しょうちゅう》のたぐいいくつかついだるを持てく。あるじのほかには誰《たれ》も取らず、ただ大隊長のみは、「われ一個人にとりては『シャルトリョオズ』をこそ」とてひと息に飲みぬ。このときわが立ちし背のほの暗きかた
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