れて、白石《はくせき》の階《きざはし》のぼりゆくとき、園の木立を洩《も》るゆう日朱のごとく赤く、階の両側《ふたがわ》にうずくまりたる人首獅身《じんしゅししん》の「スフィンクス」を照したり。わがはじめて入るドイツ貴族の城のさまいかならん。さきに遠く望みし馬上の美人はいかなる人にか。これらもみな解きあえぬ謎《なぞ》なるべし。
 四方《よも》の壁と穹窿《まるてんじょう》とには、鬼神竜蛇《きじんりょうだ》さまざまの形をえがき、「トルウヘ」という長櫃《ながびつ》めきたるものをところどころにすえ、柱には刻みたる獣の首《こうべ》、古代の楯《たて》、打ち物などをかけつらねたる間、いくつか過ぎて、楼上にひかれぬ。
 ビュロオ伯は常の服とおぼしき黒の上衣のいとひろきに着かえて、伯爵夫人とともにここにおり、かねて相識れるなかなれば、大隊長と心よげに握手し、われをも引き合わさせて、胸の底より出ずるようなる声にてみずから名のり、メエルハイムには「よくぞ来たまいし」と軽く会釈しぬ。夫人は伯よりおいたりと見ゆるほどに起居《たちい》重けれど、こころの優しさ目《まみ》の色にいでたり。メエルハイムをかたわらへ呼びて、なに
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