が肘《ひじ》に指さきかけてかえりしが、うちとけたりとおもうさまも見えず。
 メエルハイムはわれに向いて、「いかに、きょうの宴おもしろかりしや」と問いかけて答を待たず、「われをも組に入れたまえ」と群れのかたへ歩みよりぬ。姫たちは顔見あわせて打ち笑い、「あそびにははや倦《う》みたり、姉ぎみとともにいずくへか往きたまいし」と問えば、「見晴らしよき岩角わたりまでゆきしが、このピラミイドには若《し》かず、小林ぬしは明日わが隊とともにムッチェンのかたへ立ちたもうべければ、君たちの中にて一人塔のいただきへ案内《あない》し、粉ひき車のあなたに、汽車の煙《けぶり》見ゆるところをも見せたまわずや」といいぬ。
 口|疾《と》きすえの姫もまだなんとも答えぬ間に、「われこそ」といいしは、おもいもかけぬイイダ姫なり。ものおおくいわぬ人の習いとて、にわかに出だししことばとともに、顔さと赤めしが、はや先に立ちていざのうに、われはいぶかりつつもしたがい行きぬ。あとにては姫たちメエルハイムがめぐりに集まりて、「夕餉《ゆうげ》までにおもしろき話一つ聞かせたまえ」と迫りたりき。
 この塔は園に向きたるかたに、くぼみたる階をつくりてそのいただきを平らかにしたれば、階段をのぼりおりする人も、いただきに立ちたる人も下よりあきらかに見ゆべければ、イイダ姫がこともなくみずから案内せんといいしも、深く怪しむに足らず。姫はほとほと走るように塔の上り口にゆきて、こなたをかえりみたれば、われもいそぎて追いつき、段の石をば先に立ちて踏みはじめぬ。ひと足遅れてのぼり来る姫の息せまりて苦しげなれば、あまたたび休みて、ようよう上にいたりて見るに、ここはおもいのほかに広く、めぐりに低き鉄欄干をつくり、中央に大なる切り石一つすえたり。
 いまやわれ下界を離れたるこの塔のいただきにて、きのうラアゲウィッツの丘の上よりはるかに初対面せしときより、あやしくもこころを引かれて、いやしき物好きにもあらず、いろなる心にもあらねど、夢に見、うつつにおもう少女《おとめ》と差し向いになりぬ。ここより望むべきザックセン平野のけしきはいかに美しくとも、茂れる林もあるべく、深き淵《ふち》もあるべしとおもわるるこの少女が心には、いかでか若《し》かむ。
 けわしく高き石級をのぼりきて、臉《かお》にさしたる紅《くれない》の色まだあせぬに、まばゆきほどなるゆう日の光
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