のが無禮の振舞せしを詫びて余を迎へ入れつ。戸の内は厨にて、右手《めて》の低き※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]に、眞白に洗ひたる麻布を懸けたり。左手《ゆんで》には粗末に積上げたる煉瓦の竈あり。正面の一室の戸は半ば開きたるが、内には白布を掩へる臥床あり。伏したるはなき人なるべし。竈の側なる戸を開きて余を導きつ。この處は所謂「マンサルド」の街に面したる一間なれば、天井もなし。隅の屋根裏より※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]に向ひて斜に下れる梁を、紙にて張りたる下の、立たば頭の支ふべき處に臥床あり。中央なる机には美しき氈を掛けて、上には書物一二卷と寫眞帖とを列べ、陶瓶にはこゝに似合はしからぬ價高き花束を生けたり。そが傍に少女は羞《はぢ》を帶びて立てり。
 彼は優れて美なり。乳の如き色の顏は燈火に映じて微紅を潮したり。手足の纖く※[#「梟」の「木」に代えて「衣」、第3水準1−91−74]《たをやか》なるは、貧家の女に似ず。老媼の室を出でし跡にて、少女は少し訛りたる言葉にて言ふ。「許し玉へ。君をこゝまで導きし心なさを。君は善き人なるべし。我をばよも憎み玉はじ。明日に迫るは父の葬《
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