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ふじの山おなじ姿に見ゆるかな
  かなたおもてもこなたおもても
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とか云ふのがあつて、奈何に有りの儘が好いと云つても、これでは歌にならないと云つてあつた。それを可笑しいと思つたのを記憶してゐる。
 俳句は類題の零本を読んで面白いと丈は思てゐた。分かると思ふ句と、分からぬと思ふ句とがあつた。その分かると思つたのが、ひどく見当違いであつたとは、今から回顧して見ても思はない。生利で物は早く飲み込むことの出来る性であつたらしい。
[#天から3字下げ]秋風や白木の弓に弦張らん   去来
と云ふ句がひどく気に入つて、こんな句がして見たいと思つた。その後俳句を少しして見たが、かう云ふ向きの句は一つも出来たことがない。何事によらず、自分の出来ない方角のものに感服してゐて、それが出来ずじまひになるのが、性分であるらしい。
○父は医書の外は何も読まない流儀の人であつた。詩や歌や俳句の本が偶※[#二の字点、1−2−22]有つたのは、皆祖父の遺物である。祖父は歌を一番好いてゐた。始て江戸に上る途中で、
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おもひきやさしも名高き富士のねも
  麓を雲の上
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