は亡くなったのだから、もういたし方がございません。」ユリアが警部にこう云ったのは無理も無い。あんなやくざもののツァウォツキイを、死んだあとになってまで可哀く思うのは、実に怪しからん事である。さて葬いのあった翌日からは、ユリアは子供の着物を縫いはじめた。もう一月で子供が生れることになっていたからである。
ツァウォツキイは無縁墓に埋められたのである。ところがそこには葬いの日の晩までしかいなかった。警察の事に明るい人は誰も知っているだろうが、毎晩市の仮拘留場の前に緑色に塗った馬車が来て、巡査等が一日勉強して拾い集めた人間どもを載せて、拘留場へ連れて行く。ちょうどこれと同じように墓地へも毎晩緑色に塗った車が来て、自殺したやくざものどもを載せて行く。すぐに地獄へ連れ込むのではない。それはまず浄火と云うもので浄めなくてはならないからである。浄めると云うのは悉《くわ》しく調べるのである。この取調べの末に、いつでも一人や二人は極楽へさえやって貰うのである。
この緑色の車に、外の人達と一しょにツァウォツキイも載せられた。小刀を胸に衝き挿したままで載せられた。馬車はがたぴしと夜道を行く。遠く遠く夜道を
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