「行ってしまいましたの。でもわたしびっくりしたので、いまだに動悸がしますわ。ひどく打ったのに、痛くもなんともないのですもの。ちょうどそっと手をさすってくれたようでしたわ。真っ赤な、ごつごつした手でしたのに、脣が障ったようでしたわ。そうでなけりゃ心の臓が障ったようでしたわ。」
「わかってよ」と、母は小声で云って、そのまま縫物をしていた。
その後二人はこの時の事を話さずにしまった。二人は長い間生きていた。死ぬるまで生きていた。
お話はこれでおしまいだよ。坊やはいい子だ。ねんねおし。
底本:「諸国物語(上)」ちくま文庫、筑摩書房
1991(平成3)年12月4日第1刷発行
底本の親本:「鴎外全集」岩波書店
1971(昭和46)年11月〜1975(昭和50)年6月
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2007年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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