か。」
「いゝえ、なに。格別な事ではありません。無論お呼び立て申したのは、少しわけがあるのですが、どうもどう申して宜しいか。兎に角、御交際は御交際、公務は公務といたさなくてはなりませんが。」
「そこでどうしたと仰やるのですか。要点丈は一寸お示し下さらなくては、わたくしの方でも判断が附きません。」
「実はそのクリユキンさんですか、其方がいつも革命々々と云ふ事をお書きになるですな。なんだかかう、その革命と云ふものを掴まへて、引つ張つて来たいと云ふ風に見えるですな。」
「はゝあ。いや。それは、お考へ違ひですよ。」顔に驚きの表情をして微笑んでゐる。
「いや。さうでないです。わたくしの申すことは間違つてはゐないやうですがなあ。一体これはあなたに申す筈ではないのですが、実はわたくしが読んで見て、発見いたしたのではありません。或るその筋の。」
「ふん。なる、なる。それはクリユキンの文章に革命と云ふ詞があるかも知れませんが、あつたつて差支なささうなものですがなあ。フランス革命と云ふやうな、歴史上の事実は、誰だつて言ひも書きもしますからなあ。どの新聞でも、雑誌でも御覧になるが好い。革命と云ふ字の丸で書い
前へ
次へ
全35ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング