−81]《まぶた》の隙間から、異様に光つてゐるのを見て、娘は本能的に恐怖心を発した。そしてニノチユカの小さい胸は波立つた。ニノチユカは跡から追ひ掛けられるやうに、暗い室から座鋪《ざしき》へ出た。そこには冬の朝の寒い日が明るく照つてゐて、黄いろいカナリア鳥が面白げに、声高く啼いてゐて、もうこはくもなんともなくなつた。
「お父うさんはまだお目が醒めないかい。」と、母が問うた。
「いゝえ。」
「もう一遍行つて見てお出。」
「こはいわ。お父うさんがこはい顔をしてゐるのだもの。」おもちやにしてゐた毬の手を停めてかう云つたとき、娘の顔は急に真面目になつて、おつ母さんそつくりに見えた。
「馬鹿な事をお言ひなさい。」
「だつて、お父うさんの目丈があたいを見てゐて、お父うさんは動かずにゐるの。」
 子供のかう云ふのを聞いて涙ぐんだので、母は顔を背《そむ》けた。娘はもう父の事を忘れてしまつてゴム毬を衝いてゐる。
 午後一時頃に、門口のベルがあら/\しい音を立てた。誰も彼も足を爪立てて歩いて、小声で物を言つてゐる家の事だから、此音は不似合に、乱暴らしく、無情に響いた。グラフイラ夫人はびつくりして、手で耳を塞
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