ログラムさ。我輩共の新聞に対して、君はどんな態度を取らうと思つてゐるのだ。僕は頂天立地的の好漢だ。厭に黙つてゐる奴は嫌ひだ。おい。どうだね。」
「遣り給へ。遣り給へ、プラトン・アレクセエヰツチユ君。」
「東西、東西。」
プラトンは酒を一ぱい注がれた杯を持つて起つた。手が震ふので、注いである「外国通信」が翻《こぼ》れた。頭が変になつてゐる。生れてから演説といふものをしたことがないので、なんと云つて好いか分からない。
社説記者はプラトンが、まだみんなが黙らないので、口を開かないのだと思つて、雷のやうな大声で「東西」と叫んだ。
「東西。」
「諸君」と丈は、プラトンが先づ云つて、杯を持つた手を少し前へ出した。「わたくしは」と続けたが、さあ、跡をなんと云つて好いか分からなくなつた。とう/\かう云つた。「わたくしは当新聞の編輯長ミハイル・イワノヰツチユ君に対して、将来永く親交を継続いたさうと存じてをります。随て当新聞に対して、好意を有する積りであります。而《しか》して。えへん。而して。諸君。わたくしは編輯長と当新聞との為めに祝して、この杯を傾けます。」
社説記者は大声で叫んだ。「なんだ。丸で
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