の女でも若い盛りが過ぎて一度平静になった後に、もうほどなく老が襲って来そうだと思って、今のうちにもう一度若い感じを味ってみたいと企てる、ちょいとした浮気の発動が、この女の上にもめぐって来ているのだと認めたのである。あの手紙にはこの方面の事は文章の上に少しも書いて無い。しかしそれがかえってこう云う状態の存在を証明しているように思われた。
すべて女の手紙を読むには、行の間を読まなくてはならない。眼光紙背に徹せなくてはならない。ピエエル・オオビュルナンは得意の作の中にこう書いた事がある。「女の手紙の意味は読んで知れるものでは無い。推測しなくてはならない。たいていわざと言わずにあるところに、本意は潜んでいるものである。」
マドレエヌの手紙の中で、一番注意してみなくてはならぬ処は二白《にはく》である。法律顧問を託する女が媚《こび》を呈するような態度で、顔がどうなったの、姿がどうなったのと云うはずが無い。
自動車がセエヌ河に沿うて走る間オオビュルナンはこんな事を考えた。「三十三年に六年を足せば三十九年になる。マドレエヌは年増としてはまだ若い方だ。察するに今度のような突飛な事をしたのは、今に四
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