》へ、六つ半時に出向いた。搦手《からめて》は一歩先に進んで西裏口を固めた。追手《おつて》は続いて岡野、菊地弥六、松高、菊地鉄平、内山の順序に東表口を這入つた。内山は菊地鉄平に表口の内側に居残つてくれと頼んだ。鉄平は一人では心元《こゝろもと》ないので、附いて来た岡村に一しよにゐて貰つた。
 追手の同心一人は美吉屋の女房つねを呼び出して、耳に口を寄せて云つた。「お前大切の御用だから、しつかりして勤めんではならぬぞ。お前は板塀《いたべい》の戸口へ往つて、平八郎にかう云ふのだ。内の五郎兵衛はお預《あづ》けになつてゐるので、今|家財改《かざいあらため》のお役人が来られた。どうぞちよいとの間|裏《うら》の路次口《ろじぐち》から外へ出てゐて下さいと云ふのだ。間違へてはならぬぞ」と云つた。
 つねは顔色が真《ま》つ蒼《さを》になつたが、やう/\先に立つて板塀の戸口に往つて、もし/\と声を掛けた。併《しか》し教へられた口上を言ふことは出来なかつた。
 暫くすると戸口が細目に開《あ》いた。内から覗《のぞ》いたのは坊主頭《ばうずあたま》の平八郎である。平八郎は捕手《とりて》と顔を見合せて、すぐに戸を閉ぢた。
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