遅《おく》れ勝《がち》になるのを叱り励まして、二十二日の午後に大和《やまと》の境《さかひ》に入つた。それから日暮に南畑《みなみはた》で格之助に色々な物を買はせて、身なりを整へて、駅のはづれにある寺に這入《はひ》つた。暫《しばら》くすると出て来て、「お前も頭を剃《そ》るのだ」と云つた。格之助は別に驚きもせず、連れられて這入つた。親子が僧形《そうぎやう》になつて、麻の衣を着て寺を出たのは、二十三日の明《あけ》六つ頃であつた。
寺にゐた間は平八郎が殆《ほとんど》一|言《ごん》も物を言はなかつた。さて寺を出離れると、平八郎が突然云つた。「さあ、これから大阪に帰るのだ。」
格之助も此《この》詞《ことば》には驚いた。「でも帰りましたら。」
「好《い》いから黙つて附いて来い。」
平八郎は足の裏が燃《も》えるやうに逃げて来た道を、渇《かつ》したものが泉を求めて走るやうに引き返して行く。傍《はた》から見れば、その大阪へ帰らうとする念は、一種の不可抗力のやうに平八郎の上に加はつてゐるらしい。格之助も寺で宵《よひ》と暁《あかつき》とに温《あたゝか》い粥《かゆ》を振舞《ふるま》はれてからは、霊薬《れいや
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