。そしてそれと同時に自分の境遇を不思議な程|的確《てきかく》に判断することが出来た。
 瀬田は跳《は》ね起《お》きた。眩暈《めまひ》の起《おこ》りさうなのを、出来るだけ意志を緊張してこらへた。そして前に爺《ぢ》いさんの出て行つた口から、同じやうに駈け出した。行灯《あんどう》の下《もと》の婆《ば》あさんは、又|呆《あき》れてそれを見送つた。
 百姓家の裏に出て見ると、小道を隔てて孟宗竹《まうそうちく》の大籔《おほやぶ》がある。その奥を透《す》かして見ると、高低種々の枝を出してゐる松の木がある。瀬田は堆《うづたか》く積もつた竹の葉を蹈《ふ》んで、松の下に往つて懐《ふところ》を探つた。懐には偶然|捕縄《とりなは》があつた。それを出してほぐして、低い枝に足を蹈《ふ》み締《し》めて、高い枝に投げ掛けた。そして罠《わな》を作つて自分の頸《くび》に掛けて、低い枝から飛び降りた。瀬田は二十五歳で、脇差を盗まれたために、見苦しい最期《さいご》を遂げた。村役人を連れて帰つた爺《ぢ》いさんが、其夜《そのよ》の中《うち》に死骸を見付けて、二十二日に領主稲葉|丹後守《たんごのかみ》に届けた。
 平八郎は格之助の
前へ 次へ
全125ページ中85ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング