馬印《うまじるし》を立ててゐる。
 玉造口|定番《ぢやうばん》の詰所は巽《たつみ》に開いてゐる。玉造口の北側である。此門は定番遠藤が守つてゐる。これに高槻の手が加はり、後には郡山《こほりやま》の三番手も同じ所に附けられた。玉造口と大手との間は、東が東大番、西が西大番の平常の詰所である。
 土井の二度の巡見の外、中川、犬塚の両目附は城内|所々《しよ/\》を廻つて警戒し、又両町奉行所に出向いて情報を取つた。夜《よ》に入《い》つてからは、城の内外の持口々々《もちくち/″\》に篝火《かゞりび》を焚《た》き連《つら》ねて、炎焔《えん/\》天《てん》を焦《こが》すのであつた。跡部の役宅《やくたく》には伏見奉行|加納遠江守久儔《かなふとほたふみのかみひさとも》、堀の役宅には堺奉行|曲淵甲斐守景山《まがりぶちかひのかみけいざん》が、各与力同心を率ゐて繰り込んだ。又天王寺方面には岸和田から来た二番手千四百余人が陣を張つた。
 目附中川、犬塚の手で陰謀の与党を逮捕しようと云ふ手配《てくばり》は、日暮頃から始まつたが、はか/″\しい働きも出来なかつた。吹田村《すゐたむら》で氏神《うぢがみ》の神主をしてゐる、
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