ヘ舟を行《や》るに堪へざるものゝ如し。我は覺えず聲を放ちて魔穴と呼びしに、舟人打ち微笑《ほゝゑ》みて、そは昔の名なり、三とせ前の事なりしが、獨逸の畫工二人ありて泅《およ》ぎて穴の内に入り、始てその景色の美を語りぬ、その畫工はフリイス[#「フリイス」に傍線]とコオピツシユ[#「コオピツシユ」に傍線]との二人なりきと云ひぬ。
 舟は石穴の口に到りぬ。舟人は※[#「舟+虜」、第4水準2−85−82]《ろ》を棄てゝ、手もて水をかき、われ等は身を舟中に横へしに、ララ[#「ララ」に傍線]は屏息《へいそく》して緊《きび》しく我手を握りつ。暫しありて、舟は大穹窿の内に入りぬ。穴は海面《うなづら》を拔くこと一伊尺《ブラツチヨオ》に過ぎねど、下は百伊尺の深さにて海底に達し、その門閾《もんよく》の幅も亦|略《ほ》ぼ百伊尺ありとぞいふなる。さればその日光は積水の底より入りて、洞窟の内を照し、窟内の萬象は皆一種の碧色を帶び、艪の水を打ちて飛沫《しぶき》を見るごとに、紅薔薇の花瓣を散らす如くなるなれ。ララ[#「ララ」に傍線]は合掌して思を凝らせり。その思ふところは必ずや我と同じく、曾て二人のこゝに會せしことを憶ひ
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