オ友なるおうなの俄に病み臥《こや》しゝ爲め、モラ、ヂ、ガエタ[#「モラ、ヂ、ガエタ」に二重傍線]に留まること一月ばかりに候ひき。かくて拿破里に着きて聞けば、私の着せし前日の夜、チエンチイ[#「チエンチイ」に傍線]といふ少年の即興詩人ありて、舞臺に出でたりと申噂に候。こは必ず君なるべしとおもひて、人に問ひ糺《たゞ》し候へば、果してまがふかたなき我戀人にておはしましき。友なるおうなは消息して君を招き候ひぬ。こなたの名をばわざとしるさで、旅店の名をのみしるしゝは、情ある君の何人の文なるをば推し給ふべしと信じ居たるが故に候ひき。おうなは再び文をおくり候ひぬ。されど君は來給はざりき。使の人の文をば讀み給ひぬといふに、君は來給はざりき。剩《あまつさ》へ君は遽《にはか》に物におそるゝ如きさまして、羅馬に還り給ひぬと聞き候ひぬ。當時君が振舞をば、何とか判じ候ふべき。私は君の誠ありげなる戀のいち早くさめ果てしに驚き候ひしのみ。私とても、世の人のめでくつがへるが儘に、多少驕慢の心をも生じ居たる事とて、思ひ切られぬ君を思ひ切りて、獨り胸をのみ傷《いた》め候ひぬ。さる程に友なるおうなみまかり、その同胞《はらか
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