スりしならず、起臥《おきふし》ごとに思ひ出でゝ、小尼公《アベヂツサ》にも語り聞せつ。されどチヲリ[#「チヲリ」に二重傍線]の避暑、御館にかへりて後の心の憂などは、我を妨げてカムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]に來させざりしなり。家の見え初めてより、われは媼の歡び迎ふる詞を想像しつゝ、歩を早めたりしが、家の門近くなりては、又|跫音《きようおん》の疾く聞えんことを恐れて、ぬきあししつゝ進み寄りぬ。
門口より見るに、土間の中央に籘《とう》を折り加《く》べて火を燃やし、大いなる鐵の銚《なべ》を弔《つ》りたり。その下に火を吹く童ありて、こなたへ振り向くを見ればピエトロ[#「ピエトロ」に傍線]なり。昔はわれ此童の搖籃を護りしことありしに、此頃はいと逞《たくま》しきものにぞなりぬる。聖《サン》ジユウゼツペ[#「ジユウゼツペ」に傍線]、檀那《だんな》の來ましつるよ、さきに來ましゝより早や久しくなり候ふとて、立ち上りて迎へぬ。わがさし伸ばす手に、童の接吻せんとするを遮りつゝ、われ、無面目《つれな》くも忘られしよとおもへるならん、忘れたるにはあらずとことわりつ。童。否、母もさは思ひ候はざりき、生存《
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