フあるごとに、必ず先づ身邊の嘗て我に恩惠を施したる人々を顧みて、自ら我舌を結び、終に我不屈不撓の氣象を發展するに及ばずして止みぬ。若し自から辯護して評せばこも謙讓の一端なるべし。されどその弱點たることは到底|掩《おほ》ふべからざるを奈何せん。
今の勢をもてすれば、その恩義の絆《きづな》を斷たんこといとむづかし。人々は我にいかなる苦痛を與へ給はんも、我が受けたるところの恩義は飽くまで恩義なり。そは人々なかりせば、我は或は饑渇《きかつ》の爲めに苦《くるし》められけんも計り難きが故なり。我が人々の爲めに身にふさはしき業《わざ》して、恩義に酬《むく》いんとせしことは幾度ぞ。我は報恩の何の義なるかを知らざるにあらず、良心のいかなるものなるかを解せざるにあらず。いかなれば人々は此良心の發動、報恩の企圖を妨碍《ばうがい》して、天才は俗事に用なしといひ、又思想多きに過ぎて世務に適せずといふぞ。若しまことに天才を視ること此の如く、思想を視ること此の如くならば、そは天才をも思想をも知らざるなり。
その頃我は大闢《ダヰツト》を題として長篇を作りぬ。この詩は字々皆我心血なりき。昔の不幸なる戀と拿破里《ナポ
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