ト、まことは幼きより尼の裝《よそほひ》したる土偶《にんぎやう》を翫《もてあそ》ばしめ、又寺に在る永き歳月の間世の中の罪深きを説きては威《おど》しすかし、寺院の靜かにして戒行の尊きを説きては勸め誘《いざな》ひ、必ず寺に歸り入らしむる習なりとぞ。
 是より先きわれは四井街の邊を過ぐるごとに、この尼寺の築泥《ついぢ》の蔭にこそ、わが嘗て抱き慰めし姫君は居給ふなれ、今はいかなる姿にかなり給ひしと、心の内におもひ續けざることなかりき。一日《あるひ》われは尼寺に往きて、格子の奧にて尼達の讚美歌を歌ふを聽きしことあり。あの歌ふ人々の間に小尼公《アベヂツサ》はおはさずやとおもひしかど、流石《さすが》心に咎められて、教子《をしへご》として寺に宿れるものゝ、彼歌樂の群に加はるや否やを問ひあきらむることを果さゞりき。既にしてわれはこのもろ聲の中より、一人の聲の優れて高く又清く、一種言ふべからざる凄切《せいせつ》の調《しらべ》をなせるものあるを聞き出しつ。その聲のアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が聲にいと好く似たりければ、把住《はぢゆう》し難き我空想は忽ちはかなき舊歡の影をおもひ浮べて、彼ボルゲエゼ[
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