ニよ、その色あひを吟味し、その縫際《ぬひめ》に心留むるにあらでは、少女の姿を論ずべからずと云ひ、理髮師は、否々、彼の美しき髮のいかに綰《わが》ねられたるかを見ずやと云ひ、語學の師はその會話の妙をたゝへ、舞の師はその擧止のけだかさを讚む。彼の我師と稱するものは、この工匠等に異ならず。されどわれ若し憚《はゞか》ることなくして、人々よ、我も一々の美を見ざるにあらねど、我を動かすものは彼に在らずしてその全體の美に在り、是れ我職分なりと曰《い》はゞ、人々は必ず陽《あらは》に、げに/\我等の教ふるところは汝詩人の目の視るところより低かるべしと曰ひつゝ、陰《ひそか》に我愚を笑ふなるべし。
 天地の間に生物《せいぶつ》多しと雖、その最も殘忍なるものは蓋《けだ》し人なるべし。われ若し富人ならば、われ若し人の廡下《ぶか》に寄るものならずば、人々の旗色は忽ちにして變ずべきならん。人々の聰明ぶり博識ぶりて、自ら處世の才《ざえ》に長《た》けたりげに振舞ふは、皆我が食客たるをもてにあらずや。我は泣かまほしきに笑ひ、唾せんと欲して却《かへ》りて首を屈し、耳を傾けて俗士婦女の蝋を嚼《か》むが如き話説を聽かざるべからず
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