ウてはかの謳者《うたひて》は此人なりしか、公衆の稱歎は尋常《よのつね》ならざりき、重ねて技《わざ》を演じ給はゞ、世に名高き人ともなり給はんものをなどいへり。風の餘り好かりければ、初めソレントオ[#「ソレントオ」に二重傍線]より陸《くが》に上るべかりし航路を改め、直ちに拿破里の入江を指して進むことゝなりぬ。
 われは拿破里の旅寓《はたご》に入りて、三通の書信に接したり。その一は友人フエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]が手書なり。フエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]はきのふイスキア[#「イスキア」に二重傍線]の島に遊び、三日の後ならでは還らずとの事なりき。明日《あす》の午頃には人々こゝを立たんと宣給《のたま》へば、われはこの唯だ一人なる友にだに、暇乞《いとまごひ》することを得ざらんとす。その二はわが宿を出でし次の日に來しものなる由、房奴《カメリエリ》われに語りぬ。これを讀むに唯だ二三行の文あり。心誠なるものゝおん身の爲め好かれとおもへるありて、今宵おん身の來まさんことを願ふとのみ書きて、末に昔の友なる女と署し、會合の家を指し示せり。其三はこれと同じ手して書けるものなり。その文左の如くなりき
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