ホひつゝ、掌《たなぞこ》を我肩上に置きて、晝見つる美人の爲めに思を勞すること莫《なか》れといふ。われ。然《し》か宣給《のたま》へど、接吻をばわれ博し得たり。渠《かれ》。そは固《もと》よりなり。されどわれを始終|繼子《まゝこ》たりしものとな思ひそ。われ。繼子たりしや否やは知らず。唯だ繼子らしかりしは事實なり。渠。われは未だ曾て繼子たりしことなし。おん身若し能く祕密を守らば、われは敢て告ぐるところあらんとす。われ。何事まれ語り給へ。われは誓ひて餘所《よそ》に洩さゞるべし。渠。さらば包まず語るべし。われは歸るさに故意《わざ》と手帳を遺《わす》れ置きぬ。そは日暮れて再び往かん爲めなり。原《も》と女といふものは、只二人居向ひては頑《かたくな》ならぬが多し。さて我は再び往きぬ。衣の綻びたるは、墻《かき》踰《こ》え籬《まがき》を穿《うが》ちし時の過《あやまち》なり。われ。さらば女はいかなりし。渠。晝見しよりも美しかりき。美しくして頑《かたくな》ならざりき。わが預《あらかじ》め度《はか》りし如く、さし向ひとなりては何のむづかしき事もなかりき。おん身が得しは只一つの接吻なりしが、わが得しは千萬にて總て殘
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