ゥ》に善き人なりと云へり。われ女の手を取りて、努《ゆめ》彼詞に耳傾けんとなし給ひそ、彼黄金の色に目を注がんとなし給ひそ、彼男は惡しき人なり、願はくは彼男にの面當《つらあて》に、われに接吻一つ許し給へといひぬ。女はきと我面を見たり。われ重ねて、さきに彼男の我上を語りし中に、唯だ一つの實事あり、われ未だ一たびも女の唇に觸れずといひしは是なり、我唇は清淨なり、われに接吻し給ふは小兒に接吻し給ふと同じといひぬ。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]。さて/\狡猾なる事を言ふものかな。女をくどく方便《てだて》のみはわれ汝に優れりと覺えつるに、今は汝又我を凌《しの》がんとす。女主人。否々、御身は金をこそ持ち給へれ、心ざま善ならぬ人なり。我が黄金《こがね》をも何ともおもはず、接吻をも何とも思はぬをおん身に見せんため、我はこの詩人の方《かた》に接吻すべし。新く言ひ畢《をは》りて、女主人は雙手《もろて》もて我頬を押へ、我唇に接吻して、家の内に走り入りぬ。
 日の入り果てし頃、われは獨り山上なる寺院の一房に坐して、窓より海を眺め居たり。波頭の殘紅は薔薇色をなして、岸打つ潮に自然の節奏を聞く。舟人は漁舟《すな
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