閨B歌ひ出づるに從ひて、新しき思想は多く來り加はりぬ。先づ敍したるは荒廢せる一寺院なりき。景をポジリツポ[#「ポジリツポ」に二重傍線]に取りて、わざと其名をば擧げざりき。簷《のき》傾き廊朽ちて、今や漁父の栖家《すみか》となりぬ。聖像を燒き附けたる窓の下に床ありて、一童子臥したり。月あかくいと靜けき夜、美しき童女來りおとづれぬ。その美しさは譬へんに物なく、その身の輕きことそよ吹く風に殊ならず。兩の肩には五彩燦然たる翼|生《お》ひたり。二人は共に嬉《たのし》み遊べり。少女《をとめ》は漁家の子を引きて、緑深き葡萄園に往き、又近きわたりの山に分け入るに、まだ見ぬ景色いと多く、殊に山腹の自ら闢《ひら》けて、その中にめでたき壁畫と數多き贄卓《にへづくゑ》とある寺院の見えたるなど、言へば世の常なり。或るときは共に舟に棹《さをさ》して青海原を渡り、烟立つヱズヰオ[#「ヱズヰオ」に二重傍線]の山に漕ぎ寄せつるに、山は全《また》く水晶より成れりと覺しく、巖の底なる洪爐《こうろ》中に、烟《けぶり》渦卷《うづま》き火燃え上るさま掌《たなぞこ》に指すが如くなり。或るときは共に地下の古市に遊ぶに、康衢《かうく》屋
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