は漲《みなぎ》り來りて我面を撲《う》てり。われは我精神の此の如く安く夷《たひらか》なるべきをば期せざりき。その状態は固より興奮せり。而《しか》れどもその諸機に※[#「てへん+長」、93−上段−4]觸《たうしよく》[#「※[#「てへん+長」、93−上段−4]觸」は底本では「 觸」]し易き性は十分に備はりたり。われは自家の精神作用の緊張を覺ゆると共に、又其明徹を覺えたり。猶晴れたる冬の日の空氣の極めて冷に兼ねて極めて明なるがごとくなるべし。
 看客は片紙に題を記して出し、警吏これを檢して、その法律に抵觸せざるを認めたる後、われに交付す。われは數題中に就いて其一を簡《えら》み取る自由あり。初なる一紙には侍奉《じぶ》紳士と題せり。こは人妻《ひとづま》に事《つか》ふる男を謂ふ。中世士風の一變したるものなるべし。されどわれは未だ深く心をこれに留めしことなし。(原註。「イル、カワリエル、セルヱンテ」又「チチスベオ」、今侍奉紳士と翻《ほん》す。此俗|本《も》とジエノワ[#「ジエノワ」に二重傍線]府|商賈《しやうこ》より出づ。その行販して郷を離るゝもの婦を一友に托す。これを侍奉紳士といふ。初め僧に托す
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