mに延《ひ》かれて一家に入れば、その中庭に大なる枯井あるを見る。井の裏には螺旋梯《らせんばしご》を架したり。博士われ等を顧みて云ふやう。見給へ人々。これこそ紀元千七百二十年エルボヨフ[#「エルボヨフ」に傍線]公の掘らせし井なれ。穿《うが》つこと僅に數尺にして石人現れければ、その工事は遽《にはか》に止められき。これより人の手を此井に觸れざること三十年。西班牙《スパニア》王カルロス[#「カルロス」に傍線]此《こゝ》に來て猶深く掘らせしに、見給へ、かしこの奧に見ゆる石階に掘り當てたりと云ふ。われ等はその井をさし覗《のぞ》くに、日光はエルコラノ[#「エルコラノ」に二重傍線]の市《まち》なる大劇場の石階の隅を照せり。案内者は燭を點して、われ等をして各※[#二の字点、1−2−22]これを手にせしめつ。降りて石階の上に立てば、誰か能く懷舊の情の胸間に叢《むらが》り起るを覺えざらん。是れ千七百載の昔、羅馬の民の集《つど》ひ來て、齊《ひと》しく眸《ひとみ》を舞臺の光景に凝《こら》し、共に笑ひ共に感動し共に喝采歡呼せし處なるにあらずや。側なる低く小き戸を過ぐれば、闊《ひろ》き廊《わたどの》あり。われ等は舞
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