Xしからん。交際は無くて協《かな》はぬものにて、又一たび誤りてあらぬ人と相結ぶときは、悔あるべきことなりといふ。われは深くその好意を謝して、善人は隨處にありといふ諺《ことわざ》の虚《むな》しからぬを喜びぬ。夫人は我側に寄りて、兼ねても聞き給ふならん、拿破里は少《わか》き人には危き地なりなど云ひ、猶何事をか告げんとせしに、フエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]も房《へや》より出でしかば、物語はこゝに絶えぬ。
我等は又車に乘りたり。今は車中の客も漸く互に打解けて、はかなき世語《よがたり》などしつゝ拿破里の市《まち》に近づきぬ。偶※[#二の字点、1−2−22]|驢《うさぎうま》に騎《の》りたる一群の過ぐるあり。我友はこれを見て、いたくめでたがりたり。紅の上衣を頂より被りて、一人の穉兒《をさなご》には乳房を啣《ふく》ませ、一人の稍※[#二の字点、1−2−22]年たけたる子をば、腰の邊《あたり》なる籠《こ》の中に睡らせたる女あり。又一家族を擧げて一驢の脊に托したりと覺しく、眞中には男騎りて、背後なる妻は臂《ひぢ》と頭とを夫の肩に倚《よ》せて眠り、子は父の膝の間に介《はさ》まれて策《むち》を手まさ
前へ
次へ
全674ページ中333ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング