ヘ一人だになし。かく膽太く羅馬拿破里の間を往來《ゆきき》する女はあらぬならん、奈何《いかに》などいへり。
夫人は食堂の長椅子に、はたと身を倚《よ》せ掛け、いたく倦《うん》じたる體《てい》にて、圓く肥えたる手もて頬を支へ、目を食單《もくろく》に注げり。「ブロデツトオ、チポレツタ、フアジヲロ」とか。わが汁を嫌ふをば、こゝにても早く知れるならん。否々、わが「アムボンポアン」の「カステロ、デ、ロヲオ」の如くならんは、堪へがたかるべし。「アニメルレ、ドオラテ」に「フイノツキイ」些計《ちとばかり》あらば足りなん。まことの晩餐をばサンタガタ[#「サンタガタ」に二重傍線]にてしたゝむべし。こゝは早く拿破里《ナポリ》の風の吹くが快きなり。「ベルラ、ナポリ」と呼びつゝ、夫人は外套の紐を解き、苑《その》に向へる廊《わたどの》の扉を開き、もろ手を擴げて呼吸したり。(此詞の中には食單の品目に見えたる料理の稱多し。「ブロデツトオ」は卵の※[#「穀」の「禾」に代えて「黄」、78−上段−27]《きみ》を入れたる稀《うす》き肉羹汁《スウプ》、「チポレツタ」は葱、「フアジヲロ」は豆、「カステロ、デ、ロヲオ」は卵もて製し
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