黷驍ツいでに、われはこたび身を以て逃れたる事のもとさへ、包み藏《かく》さずして告げぬ。唯だアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が上をば少しも言はざりき。さてわが物語の終は、この上殊なる望なければ、この身を官府に引き渡して、襃美にても受け給へといふことなりき。
 一人の男のいはく。さりとては珍らしき望なるかな。想ふに羅馬市には、黄金《こがね》の耳環《みゝわ》を典して、客人を贖《あがな》ひ取ることを吝《をし》まざる人あるならん。拿破里《ナポリ》の旅稼《たびかせぎ》は、その後の事とし給はんも妨《さまたげ》あらじ。さはあれ強ひて直ちに拿破里に往かんとならば、あぶなげなく彊《さかひ》を越させ申さんことも、亦我等の手中に在り。留りて此樂園に居らんとならば、それも好し。こゝに在るは善き人々なるをば、客人も夙《と》く悟り給ひしならん。されど此等の事思ひ定め給はんには、先づ快く一夜の勞を醫《いや》し給ふに若かず。こゝに佳《よ》き牀《とこ》あり。それのみならず、來歴ある好き衾《ふすま》をも借し參らせん。巽風《シロツコ》吹く頃の夕立をも、雪ふゞきをも凌《しの》ぎし衾ぞとて、壁よりはづして投げ掛くるは、褐
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