オけれ。推するにその打扮《いでたち》は軍隊の號衣《ウニフオルメ》に擬したるものならん。されど十歳|許《ばかり》の童《わらべ》までこれを着けたるはいかにぞや。その華美ならんことを欲することの甚しきを證せんがために、こゝに一例を擧げんに、其人の上衣は淡碧《うすみどり》にして銀絲の縫ひあり、長靴には黄金を鏤《ちりば》め、扁圓なる帽には羽毛連珠を着けたり。英吉利人のかゝる習をなしゝは、美しき號衣《ウニフオルメ》の好《よ》き座席を得しむる利益を知りたるためなるべし。我傍よりは笑を抑ふる聲洩れたり。されどわがそを可笑しと見しは、唯だ一瞬間なりき。
 老いたる僧官《カルヂナアレ》達は紫天鵝絨の袍の領《えり》に貂《エルメリノ》の白き毛革を附けたるを穿《き》て、埒の内に半圈状をなして列び坐せり。僧官達の裾を捧げ來し僧等は共足元に蹲《うづくま》りぬ。贄卓《にへづくゑ》の傍なる小《ちさ》き扉は開きぬ。そこより出でたるは、白帽を戴き濃赤色の袍を纏《まと》へる法皇なりき。法皇は交椅に坐したり。侍者等は香爐を搖り動したり。紅衣の若僧の松明《まつ》取りたるもの數人法皇と贄卓との前に跪《ひざまづ》けり。
 讀誦《どく
前へ 次へ
全674ページ中240ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング