黷ヌアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]は生れながらの猶太婦人にあらず。初め我がしかおもひしは、其髮の黒く、其瞳の暗きと其境界とのために惑はされしのみ。今思へば姫は矢張《やはり》基督教の民なり。終には樂土に生るべき人なり。
 この夕ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]と芝居にて逢ふことを約しき。されど餘りの大入なれば、我はつひに吾友を見出すこと能はざりき。我は辛く一席を購《あがな》ふことを得き。いづれの棧敷《さじき》にも客滿ちて、暑さは人を壓するやうなり。演劇はまだ始まらぬに、我身は熱せり。きのふけふの事、わがためには渾《すべ》て夢の如くなりき。かゝる折に逢ひて、我心を鎭めんとするに、最も不恰好なるは、蓋《けだ》し今宵の一曲なりしならん。世に知れわたりたる如く、樂劇の本讀といふは、極めて放肆《はうし》なる空想の産物なり。全篇を貫ける脈絡あるにあらず。詩人も樂人も、只管《ひたすら》觀客をして絶倒せしめ、兼ねて許多《あまた》の俳優に喝采を博する機會を與へんことを勉めたるなり。主人公は我儘にして動き易き性なる男女二人にして、これを主なる歌女及譜を作る樂人とす。絶間なき可笑しさは、盡る
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