ノ愚ならんも、枉《ま》げてこれに從はでは協《かな》はず。道具かたはそれの道具を調へんは、我座の力の及ぶところにあらずといふ。かゝる場合に原作を改むることを、芝居にては曲を曲《ま》ぐといふ。畫工は某《それ》の畑、某の井、其の積み上げたる芻秣《まぐさ》をばえ寫さじといふ。これがためにさへ曲ぐべき詞も出來たるべし。最後におもなる女優又來りて、それの詞の韻脚は囀《さへづ》りにくし、あの韻をば是非とも阿《あ》のこゑにして賜はれといふ。これがためにいかなる重みある詞を削《けづ》り給はんも、又いづくより阿のこゑの韻脚を取り給はんも、そは唯だ君が責に歸せん。かくあまたゝび改めて、ほと/\元の姿を失ひたる曲を革《かは》に掛けたるとき、看客のうけあしきを見て、樂長はかならず怒りて云はむ。拙劣なる詩のために、いたづらなる骨折せしことよ。わが譜の翼を借したれども、癡重《ちちよう》なるかの曲はつひに地に墜ちたりと云はむ。
 外よりは樂の聲おもしろげに聞えたり。假面着けたる人はこゝの街にもかしこの辻にもみち/\たり。たちまち拍手の音と共に聞ゆる喝采の響いとかしましきに、一座の人々みな窓よりさし覗きぬ。いまわれ意中
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