經たり。然れども軍職の身に在るを以て、稿を屬するは、大抵夜間、若くは大祭日日曜日にして家に在り客に接せざる際に於いてす。予は既に、歳月の久しき、嗜好の屡※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》變じ、文致の畫一なり難きを憾《うら》み、又筆を擱《お》くことの頻にして、興に乘じて揮瀉すること能はざるを惜みたりき。世或は予其職を曠《むな》しくして、縱《ほしいまゝ》に述作に耽ると謂ふ。寃《ゑん》も亦甚しきかな。
三、文中|加特力《カトリツク》教の語多し。印刷成れる後、我國公教會の定譯あるを知りぬ。而れども遂に改刪《かいさん》すること能はず。
四、此書は印するに四號活字を以てせり。予の母の、年老い目力衰へて、毎《つね》に予の著作を讀むことを嗜《たしな》めるは、此書に字形の大なるを選みし所以の一なり。夫れ字形は大なり。然れども紙面殆ど餘白を留めず、段落猶且連續して書し、以て紙數をして太《はなは》だ加はらざらしむることを得たり。
明治三十五年七月七日下志津陣營に於いて
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[#地から1字上げ]譯者識す
第十三版題言
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是れ予が壯時の筆に成れ
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