ヘ私を護り給ふこと、君を護り給ふに同じかるべく候。アントニオ[#「アントニオ」に傍線]の君よ、さきには我を思ひ棄て給へと申候へども、未錬ともおぼさばおぼせ、猶親しかりし人のみまかりしを思ひ給ふが如く、我を思ひ給はんことのみは望ましく存※[#「まいらせそろ」の草書体文字、145−中−19]。
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涙は讀むに隨ひて流れ、わが心の限の涙と化して融け去るを覺えたり。此より下は、かすかなる薄墨の痕猶|新《あらた》にして、數日前に寫されしものと知らる。
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苦を受くる月日も最早|些子《ちと》を餘し候のみと存※[#「まいらせそろ」の草書体文字、145−中−25]。今まで受けつるあらゆる快樂の聖母の御惠なると等しく、今まで受けつるあらゆる苦痛も亦聖母の御惠と存※[#「まいらせそろ」の草書体文字、145−中−27]。死は既に我胸に迫り候。血は我胸より漲り流れ候。いま一囘轉して漏刻の水は傾け盡され申すべく候。人の傳へ候ところに依れば、ヱネチア[#「ヱネチア」に二重傍線]第一の美人は君がいひなづけの妻となり居候由に候。私の死に臨みての願は、御二人の永く幸福を享《う》け給はんことのみに候、あはれ、此數行の文字を托すべき人は、その人ならで又誰か有るべき。その人の私の請《こひ》を容れて、こゝに來給ふべきをば、何故か知らねど、牢《かた》く信じ居※[#「まいらせそろ」の草書体文字、145−下−8]。生死の境に浮沈し居る此身の、一杯の清き水を求むべき手は、その人の手ならではと存※[#「まいらせそろ」の草書体文字、145−下−10]。さらば/\、アントニオ[#「アントニオ」に傍線]の君よ。私の此土に在りての最終の祈祷、彼土に往きての最初の祈祷は、君が御上と、私の徒《いたづ》らに願ひてえ果さず、その人の幸ありて成し遂げ給ふなる、君が偕老の契《ちぎり》の上とに在るのみなることを、御承知下され度存※[#「まいらせそろ」の草書体文字、145−下−15]。今更|繰言《くりごと》めき候へども、聖母の我等二人を一つにし給はざりしは、其故なからずやは。私は世人にもてはやされ讚め稱《たゝ》へられて、慢心を増長し居候ひぬれば、君にして當時私を娶《めと》り給ひなば、君の生涯は或は幸福を完うし給ふこと能はざりしにあらずやと存※[#「まいらせそろ」の草書体文字、145−下−21]。さ
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