ィん身に聞かせまつることながら、これを語る苦しさをば察し給へといふ。その面は色を失ひて、唇は打顫へり。我が、あな、何事のおはせしぞと驚き問ふ時、マリア[#「マリア」に傍線]は兜兒《かくし》の中より、一封の書《ふみ》を取出《とうで》て、さて語を續《つゞ》けて云ふやう。不可思議なる神の御手《みて》は、我を延《ひ》きておん身の生涯の祕密の裡に立ち入らしめ給ひぬ。されど心安くおもひ給へ。われは沈默を死者に誓ひしが故に、ロオザ[#「ロオザ」に傍線]にだに何事をも語らざりき。祕密の何物なるかは、此封を開かば明《あきらか》ならん。これを我手に受けてより、はや二日を過ぎぬ。今おん身にわたしまゐらせて、我は約を果し侍りぬといふ。われ、その死者とは何人ぞ、此|書《ふみ》は何人の手より出でしぞと問ふに、マリア[#「マリア」に傍線]、そは御身の祕密なるものをとて、起ちて一間を出でぬ。
 家に歸りて封を啓《ひら》けば、内より先づ二三枚の紙出でたり。先づ取上げたる一枚は我手して鉛筆もてしるせる詩句なりき。紙の下端には墨汁《インク》もて十字三つを劃したるさま、何とやらん碑銘にまぎらはしくおぼゆ。此詩句は、わが初めてアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]を見つるとき、觀棚《さじき》より舞臺に投げしものなり。さては此一封をマリア[#「マリア」に傍線]に托しきといふはアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]なりしか。死せしはアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]なりしか。
 紙の間には別に重封《かさねふう》の書《ふみ》ありて、アントニオ[#「アントニオ」に傍線]樣へとうは書《がき》せり。遽《あわたゞ》しく裂きて中なる書《ふみ》をとりいだすに、いと長き消息の、前半は墨濃く筆のはこびも慥なれど、後半は震ふ筆もて微《かす》かに覺束なくしるされたるを見る。其文に曰く。
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文《ふみ》して戀しく懷かしきアントニオ[#「アントニオ」に傍線]の君に申上《まうしあげ》※[#「まいらせそろ」の草書体文字、144−上−6]《まゐらせそろ》。今宵はゆくりなくも、おん目に掛り候ひぬ、再びおん目にかゝり候ひぬ。こは久しき程の願にて、又此願のかなはん折をいと恐ろしくおもひしも、久しき程の事にて候。譬へば死をば幸を齎《もたら》すものぞと知りつゝも、死の到來すべき瞬間をば、限なく恐ろしくおもふが如くなるべく候
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