oスチアノ」に傍線]の像を物せり。此廣間は絶えず遠雷の如き響ありて、四壁に反響す。われその響を追ひて狹き戸を濳り出でしに、道は「ミユルツス」と葡萄との鬱茂せる間に窮まりて、脚底|千仞《せんじん》の斷崖を形づくれり。一の瀑布ありてこれに懸る。月光其泡沫を射て、銀丸を擲《なげう》つ如し。凡そ此等の景は、なべて世の好奇心あるものを動かすに足るものなるべし。されど富時の我の憂愁に沈める、或は等閑に看過したらんも知るべからず。幸に我は此境に在りて、別に一事に遭ひたり。我は其事を我心上に血書して復た消滅すべからざらしめしが故に、亦併せて此景の詳《つばら》なることを記し得たり。
 崖に沿ひて一條《ひとすぢ》の細徑《ほそみち》あり。迂※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]して初の街道に通ず。われは高萱《たかがや》を分け小草《をぐさ》を踏みて行きしに、月は高き石垣の上を照して、三人《みたり》の色蒼ざめたる首《かうべ》の、鐵格の背後《うしろ》より、我を覗《うかゞ》ふを見たり。こは山賊を梟《けう》せるなりき。ネピ[#「ネピ」に二重傍線]の人の此壁上に梟首するは、羅馬の人のアンジエロ[#「アンジエロ」に傍線]門(ポルタ、デル、アンジエロ)の上に梟首するに殊ならず。首を鐵籠中に置くことはた同じ。常の我ならば、遠く望みて走り去るべきに、此頃の痛苦は我に哲學思想を與へ、我をして冷眼もてこれを視ることを敢てせしめき。嗚呼、王侯の前に屈せざりし首よ、人を殺し火を放つ計《はかりごと》を出しゝ首よ、深山《みやま》の荒鷲に似たる男等の首よ。今は靜に身を籠中に托すること、人に馴れたる小鳥の如し。近づくこと一歩にして見れば、刎《は》ねられてよりまだ日を經ざるものと覺しく、鬚眉《しゆび》猶生けるがごとし。既にして我は中央なる首級の少しく異なるものあるを認め得たり。こは分明《ぶんみやう》に老女《おうな》の首なりしなり。我はこの褐《かち》いろの顏、半ば開ける※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《まぶた》、格子の外に洩れ出でゝ風に亂るゝ銀髮を凝視して、我脈搏の忽ち亢進するを覺えき。われは眼を壁に懸けたる石版に注げり。版には土地《ところ》の習にて、梟せられたるものゝ氏名と其罪科とを彫《ゑ》りたり。果せるかな、中央に老女フルヰア[#「フルヰア」に傍線]、フラスカアチ[#「フラスカアチ」に二重傍線]の産と記せり。
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