闍盾スり。
 奧の詰《つめ》なる室には、少年紳士等打寄りて撞球戲《たまつき》をなせり。婦人も幾人《いくたり》か立ち雜《まじ》りたるに、紳士中には上衣を脱ぎたるあり。われは初め此社會の風儀のかくまで亂れたるをば想ひ測《はか》らざりしなり。入口の戸に近く、此方《こなた》に背を向けて撞杖《キユウ》を揮へる丈《たけ》高き一男子あり。今の撞《つ》きざまや巧なりけん、人々喝采せしに、前《さき》に我に骨牌を勸めし少女も彼男子の面を覗きて、笑みつゝ何事をかさゝやきたり。男は振り向きざまにその頬に接吻し、女は嬌嗔《けうしん》してその男を打てり。われは遙に彼男の横顏を望み見て慄慴《りつせふ》せり。そはその餘りにベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]に肖《に》たるが爲めなり。われは進みてこれに近づくべき膽力なかりき。されどその眞のベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]なりや否やを知らんことの願はしければ、傍にほの暗き室の戸の開きありたるを見て、我より窺ふべく彼より見るべからざらしめんために、壁に沿ひて徐《しづか》に歩み、そとこれに進み入れり。天井には紅白の硝子燈を弔《つ》りたれど、わざと明闇|相半《あひなかば》して處々蔭多からしめたり。室は假の庭園なり。薄片鐵《ブリキ》を塗りて葉となしたる蔓艸《つるくさ》は、幾箇のさゝやかなる亭《あづまや》に纏ひ附きて、その間には巧に盆栽の橘柚《オレンジ》等を排《なら》べたり。亭の前なる梢には剥製の鸚鵡《あうむ》の止《と》まりたるあり。冷なる風は窓より入りて、自奏器の樂聲人の眠を催さんとす。
 わが此裝置を一瞥し畢《をは》りし時、彼のベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]に肖《に》たる男はこなたに向ひて足の運び輕げに歩み來たり。われは思慮を費すに遑《いとま》あらずして、近き亭《あづまや》の内に濳みしに、男は面《おもて》に笑《ゑみ》を湛へて閾上《よくぢやう》に立ち留まりぬ。その面は恰も我方へ眞向《まむき》になりたるが、われはそのまがふ方なきベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]なることを認め得たり。渠《かれ》は隣なる亭に歩み入り、長椅《ヂノワ》に身を投げ掛けて、微かに口笛を鳴し居たり。我胸裏には萬感|叢起《さうき》せり。ベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]こゝに在り。我と他《かれ》と咫尺《しせき》す。われはかく思ふと共に、身うちの悉く震《ふる》
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