@く美しく又賢からむには奈何《いかん》。友。其薔薇花の美しき間は、わが愛づべきこと慥なり。されど色香一たび失せたらむ日には、われは我心のいかになり行くべきを知らず。汝はわが今何事を思ひしかを知るや。この念は忽ち生じ忽ち滅すれど、今始て生ぜるにはあらず。われは汝の血のいかに赤きかを見んと願ふことあらむも計られず。されどわれには智あり。汝は我友なり。わが潔白なる友なり。縱令《よしや》われ等二人同じ女に懸想《けさう》することあらんも、相鬪ふには至らざるべし。斯く言ひつゝ友は聲高く笑ひ、我首を抱きて戲れながらにいふやう。我に馴れたる小鳥ありて、その情はいと濃《こまや》かなれど、この頃は些《すこ》し濃かなるに過ぎて厭はしくなりぬ。思ふに汝には氣に入るべし。こよひ我と共に來よ。親友の間には隱すべきことなし。面白く一夜を遊び明さむ。さて日曜日にならば、法皇は我等が罪を洗ひ淨め給ふべきぞ。われ。否、我は共に往かざるべし。友。そは卑怯なり。汝は汝の血を傾け盡して、只だ山羊の乳のみを留めんとするか。汝が目は我目に等しく耀《かゞや》くことあり。われは嘗てこれを見き。汝が鬱悶、汝が苦惱、汝が懺悔《ざんげ》、是れ畢竟何物ぞ。われあからさまに言ふべきか。是れ得んと欲して得ざるところあるなり。その得ざるところのものは、赤き唇なり、軟なる膚なり。汝が假面の被《かぶ》りざま拙《つたな》ければ、われは明白に看破せり。いざ往いてその得んと欲する所のものを得よ。汝否といはゞ、そは卑怯なり、臆病なり。われ。止めよ。そは餘りなる詞なり。そは我を辱《はづかし》むる詞なり。友。されど汝はその辱《はづかしめ》を甘んじ受けざること能はざるべし。これを聞きしとき、我血は上りて頭を衝《つ》きしが、我涙も亦湧きて目に溢れたり。いかなれば汝はかくまでに無情なる。我は汝を愛し汝は我を弄ぜんとす。アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]と汝との間にわれ立てりと思へるにはあらずや。アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]の我を視ること汝より厚しとおもへるにはあらずや。友。否、決して然らず。わが空想家ならずして思遣《おもひやり》少きは汝も知りたらん。されど女の事をば姑《しばらく》く置け。唯だ心得がたきは、汝がいつも愛々といふことなり。我等二人は手を握りて友となりたり。その外には何も無し。我は汝と共に夸張《くわちやう》すること能はず。
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