単に自分の美貌を意識したばかりではない。己は次第にそれを利用するようになった。己の目で或る見かたをすると、強情な年長者が脆《もろ》く譲歩してしまうことがある。そこで初めは殆ど意識することなしに、人の意志の抗抵を感ずるとき、その見かたをするようになった。己は次第にこれが媚《こび》であるということを自覚せずにはいられなかった。それを自覚してからは、大丈夫《だいじょうふ》たるべきものが、こんな宦官《かんがん》のするような態度をしてはならないと反省することもあったが、好い子から美少年に進化した今日も、この媚が全くは無くならずにいる。この媚が無形の悪習慣というよりは、寧《むし》ろ有形の畸形《きけい》のように己の体に附いている。この媚は己の醒めた意識が滅《ほろぼ》そうとした為めに、却ってraffine[#最後の「e」は「´」付き]《ラフィネエ》になって、無邪気らしい仮面を被って、その蔭に隠れて、一層威力を逞くしているのではないかとも思われるのである。そして外面から来る誘惑、就中《なかんずく》異性の誘惑は、この自ら喜ぶ情と媚とが内応をするので、己の為めには随分|防遏《ぼうあつ》し難いものになっている
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